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甲状腺疾患へのアプローチ

甲状腺腫〜甲状腺の大きさの異常

甲状腺は正常では前頸部の正中で、のどぼとけと胸骨の間にあります。また、左右をV字形の筋肉(左右の胸鎖乳突筋)に挟まれた位置にあります。この一帯はくぼんでいるか、わずかにくぼんで見えるくらいが正常です。くぼみがなく、表面が平坦に見えたら少し甲状腺が大きくなっている可能性があります。膨らんで見えたり、輪郭をもって膨らんでいたら、明らかな腫大があると考えます。びまん性腫大では、全体が均一に腫れます。結節性腫大では、甲状腺の一部のみがしこり様に大きくなります。

甲状腺腫はホルモン値の異常(甲状腺ホルモンの増加もしくは減少)を伴っていることもあれば、正常の場合もあります。また、ホルモン値が正常であっても免疫学的異常が背景に存在している場合もあります。
大まかに可能性がある疾患を挙げると;
○ びまん性腫大:
 バセドウ病(自己免疫異常であり、甲状腺ホルモンが大量に合成・分泌されます)
 慢性甲状腺炎(自己免疫異常であり、甲状腺組織がダメージを受けます)
 腺腫様甲状腺腫(過形成であり、複数の結節性病変ができてきます)
○ 結節性腫大:
 のう胞(液体が貯留する袋ができます)
 プランマー病(甲状腺ホルモンが”どんどん勝手に”合成・分泌されます)
 濾胞腺腫(良性腫瘍です)
 腺腫様甲状腺腫(過形成が単発の場合)
 甲状腺悪性腫瘍(甲状腺には数種類の腫瘍ができることが知られています)
などがあり、血液検査以外に、超音波、さらには必要に応じて、シンチグラフィー、CT、針生検などを行っていくことになります。

甲状腺ホルモン量の異常〜増加と減少

甲状腺ホルモンは多様な生理作用を持っていますが、全体としては細胞や臓器の代謝や活性を高めたり、精神や神経の働きを活性化させる役割を担っています。

○ 甲状腺ホルモンが増加した場合の症状:
頻脈や動悸、皮膚の湿潤や発汗過多、手先の震え、暑がり、体重減少、下痢・軟便傾向、疲れやすい、神経過敏・イライラなどの精神症状など。 これらの症状は、”一時的なストレスや過労のせいだ”などと間違われていることがあります。
原因となる疾患や状態: バセドウ病、プランマー病、破壊性甲状腺炎=一時的に甲状腺組織にダメージが加えられ、貯蔵されていたホルモンが血中に放出される(無痛性甲状腺炎や亜急性甲状腺炎があります)、甲状腺ホルモンの意図しない摂取など。

○ 甲状腺ホルモンが減少した場合の症状:
徐脈、皮膚の乾燥や粗造、脱毛(髪の毛や眉毛)、寒がり、むくみや顔貌変化、声の変化、体重増加、便秘傾向、疲れやすい、集中力低下や思考力低下などの精神症状など。 これらの症状は、”年をとってきたせいだ”、”認知症では?”などと間違われたり、長期間気づかれないままのこともあります。
原因となる疾患や状態: 慢性甲状腺炎(橋本病とも呼ばれます)、破壊性甲状腺炎の回復期、ヨード造影剤などの大量使用後など。

甲状腺から作られるホルモンは、T3とT4の二種類です。生体内で働く本当のホルモンはT3であり、甲状腺で作られたり、薬として摂取したT4は、T3に転換されて働き始めます。
臨床では、この二種類のホルモンを遊離T3(フリーT3)、および遊離T4(フリーT4)として測定することが多いのです。

さらに、これらとならんで重要なホルモンがあります。甲状腺刺激ホルモンTSHです。TSHは脳の下垂体で分泌されるホルモンですが、甲状腺ホルモンの量を厳しく監視している上位のホルモンです。T3/T4が少なければ、TSHは増え、甲状腺にホルモン産生を増やすように指示します。一方、T3/T4が多ければ、TSHは減り、甲状腺にホルモン産生を減らすように指示します。従って、T3/4とTSHが揃って正常範囲内であるのが適正な状態です。各種甲状腺疾患ではこのバランスが崩れてきます。

甲状腺と自己免疫

甲状腺ホルモンが増加する疾患の代表格はバセドウ病です。また、減少する疾患の代表格は慢性甲状腺炎です。これらの疾患はともに自己に対する免疫応答の異常、すなわち甲状腺組織に対する自己免疫が原因で発症します。

脳下垂体から分泌されるTSHは甲状腺に到達して、甲状腺細胞上にあるTSH受容体に結合してホルモン産生を活性化します。バセドウ病ではTSHの作用を真似する自己抗体ができてしまうのです。この自己抗体ができると、TSHの量のいかんにかかわらず、甲状腺細胞が刺激され続けてホルモンが多量に産生されます。
バセドウ病を疑うときは、このTSH受容体抗体(TRAb)を測定します。バセドウ病を内服薬で治療する際には、TRAbの変化(減少)を年余にわたって観察してゆくことになります。TRAbの正常化がバセドウ病寛解のひとつの目安となります。

慢性甲状腺炎では、甲状腺細胞が持つサイログロブリンとペルオキシダーゼに対する抗体ができてくるので、抗サイログロブリン抗体(抗Tg抗体)と抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(抗TPO抗体)を測定します。慢性甲状腺炎では病気の本体である自己免疫に対しての治療は存在しませんし、必要でもありません。甲状腺ホルモンが低下しているときは、T4の内服薬(まれにT3の内服薬)でホルモン値を適正範囲に調整します。内服は通常長期にわたって必要となります。

甲状腺に特有な蛋白質

甲状腺でのみ産生されるサイログロブリンの値を測定することは各種病態の把握に有用です。バセドウ病などで甲状腺細胞が著しくホルモンを産生しているとき、破壊性甲状腺炎などで甲状腺細胞にダメージが加わって中の蛋白が漏れるとき、がんなどで甲状腺細胞が盛んに増殖しているときなどにサイログロブリンは増加します。甲状腺がんの治療中にはがん細胞の量をモニターする目的でもサイログロブリンが測定されます。

甲状腺疾患@ 慢性甲状腺炎・橋本病

慢性甲状腺炎は橋本病とも呼ばれます。女性に多い病気で、無症候性を含めると成人女性の10%以上に認められるとの報告があります。この疾患は甲状腺組織に対する自己免疫応答が引き起こします。リンパ球が浸潤したり、結合組織が新生するなどして、甲状腺は腫れてきます。軽症例や過度に委縮してしまった例では甲状腺腫を触れにくい場合もあります。自己免疫応答の表れとして、自己抗体が出現してきます。臨床では抗サイログロブリン抗体(抗Tg抗体)と抗甲状腺ペルオキダーゼ抗体(抗TPO抗体)を測定します。甲状腺ホルモンは正常範囲内に留まることのほうが多く、一部の患者で甲状腺ホルモンが不足した状態、つまり、甲状腺機能低下症に陥ります。一般検査では、血中コレステロール、CK、AST、ALTなどが上昇します。治療には、合成甲状腺ホルモンであるT4製剤(チラージンS、もしくはレボチロキシンNa)を少量から用います。高齢者や虚血性心疾患のある患者ではゆっくりと増量していき、TSHの漸減→正常化が治療目標となります。

甲状腺疾患A 無痛性甲状腺炎

これは慢性甲状腺炎を基礎疾患として発症します。自己免疫が高じて甲状腺組織がダメージを受け、そこから一時的に血中に甲状腺ホルモンが漏出する疾患です。従って、甲状腺ホルモン過剰症(中毒症)を呈します。甲状腺自体には痛みは発生しないので、無痛性と呼ばれます。話はそれますが、有痛性甲状腺炎として、亜急性甲状腺炎(ウィルス感染などを契機として発症)や化膿性甲状腺炎(先天的奇形に細菌感染が加わって発症)があり、これらでは甲状腺に強い痛みが生じます。さて、無痛性甲状腺炎の治療ですが、甲状腺ホルモンの漏出自体を止める方法はありません。通常、3ヶ月以内に自然に治まってきます。この間、動悸や頻脈、多汗、倦怠感などの甲状腺中毒症状が強い場合には、甲状腺ホルモンが交感神経を刺激する過程を遮断するβブロッカーという薬剤を用いることがあります。また、無痛性甲状腺炎ではホルモン値が完全な正常化に向かう途中で、一旦、甲状腺機能低下症に陥ることがあります。甲状腺組織自体がダメージを受けるので、その間ホルモン合成自体は減少してしまうからです。機能低下症が強い場合には、一時的に甲状腺ホルモン(T4製剤)を補充します。これらの病期を経て、無痛性甲状腺炎は数ヶ月で治癒してゆきます。ただし、もともとの慢性甲状腺炎はそのまま残ります。

甲状腺疾患B バセドウ病

これも自己免疫機序で発症する疾患です。甲状腺組織は脳下垂体から分泌されるTSH(甲状腺刺激ホルモン)によって活動が制御されていますが、TSHは甲状腺細胞上のTSH受容体というアンテナにキャッチされます。すると、その信号が細胞内に伝達され、甲状腺ホルモンの合成と分泌が活性化されるというわけです。バセドウ病ではTSHの作用を真似する抗体が血中にできてしまうのです。これがTSH受容体抗体であり、略してTRAbと呼ばれます。診断検査では、甲状腺ホルモン、TSHに加えて、TRAbを測定します。一般検査では、血中コレステロール値の低下やALPの増加などが特徴的です。両者の変化は、脂質代謝や骨代謝が亢進していることを示すものです。バセドウ病では、甲状腺中毒症の症状以外にも特徴的な所見である眼球突出が表れてきます。眼球突出は眼球後方の組織が何らかの抗体刺激により肥大するために起きます。治療ですが、抗甲状腺薬であるチアマゾール、もしくはプロピルチオウラシルを使用して、甲状腺ホルモンの合成を抑制すると同時に、自己免疫を抑制します。TRAbが陰性化することと、甲状腺ホルモンおよびTSHが正常化することが治療の目標となります。寛解に要する期間は、短い場合でも約2年は必要になります。抗甲状腺薬には特有の副作用があるので、慎重な経過観察も求められます。上記内服薬療法以外にも、状況に応じて、放射性ヨード療法、または外科的甲状腺切除療法が選択されることがあります。

甲状腺疾患C 亜急性甲状腺炎

原因は不明ですが、ウィスル感染症などを契機として甲状腺に強い炎症が起きてくる疾患です。甲状腺は時に固く腫れて、痛む部位がやや移動することもあります。甲状腺組織はダメージで一時的に破壊されるので中に貯蔵されたホルモンが漏れ出します。つまり、甲状腺中毒症を起こします。治療は、痛みや炎症に対する治療と、甲状腺中毒症に対する治療に分けられます。前者に対してはNSAIDと呼ばれる鎮痛剤を使用したり、ひどい場合には副腎皮質ホルモンの力が必要になることもあります。副腎皮質ホルモンを使用する場合には痛みが軽減するのに伴い使用量をゆっくりと減量していきます。甲状腺中毒症への対応ですが、無痛性甲状腺炎の場合と同じく、必要に応じてβブロッカーを用います。血中甲状腺ホルモン値の推移は、やはり無痛性甲状腺炎の場合と同様で、発症時に著増する→減少に転じて一旦は低下状態に陥る→ゆっくりと正常レベルまで回復する、という流れになります。治癒までに数ヶ月を要します。この甲状腺炎は、無痛性甲状腺炎と違って痛みがでるので、有痛性甲状腺炎です。また、甲状腺自体には一時的に破壊が起こっているので、破壊性甲状腺炎の一種でもあります。