12.「インスリン治療の本質」
インスリン治療は1型糖尿病の患者さんでは必須ですが、いわゆる「普通の糖尿病」として認識されている2型糖尿病でも重要な治療オプションとなっています。2型糖尿病といってもその病気の背景は色々です。なかでも、体内で産生されるインスリンの絶対量が足りないタイプでは飲み薬による血糖コントロールの改善は難しくなります。3種類、4種類と内服薬を重ねていっても改善が見られない場合、そもそもインスリンの分泌が少なかったということが多々あります。自分の体からどれくらいのインスリンが出ているかをみる簡便で臨床で使いやすい指標に血中Cペプチドの測定があります。Cペプチドはホルモンとしての活性はありませんが、インスリンと同じ前駆体から切り出されてできるので、インスリンと1:1の割合で体内合成されています。それでインスリン合成と分泌のよい目安となるのです。
こうして、インスリン分泌が弱いことが判明した場合、外からインスリンを補充してあげる(=インスリンを皮下注射する)と血糖値が下がるばかりではなく、負担が減った体内のインスリン分泌細胞(膵ランゲルハンス島ベータ細胞)が休まり、長持ちして働いてくれるようになり、結果的に長期に安定した血糖コントロールにつながりやすいのです。
インスリン治療で何が患者さんにとっていやかというと、注射であること自体と、低血糖への怖れではないでしょうか。この点は人間の普遍的心理から消し去ることはできないでしょう。ただし、今はこういったことに配慮した方策がとられてきているのも事実です。痛みが軽減された注射針、注射回数を少なくした打ち方、血糖値の変動幅を抑えて低血糖の発現頻度を減らした製剤、自己血糖測定機器の改善などを挙げることができます。インスリンの効力を最大限に引き出しつつ、リスクは可能な限り低くする。糖尿病の患者さんをみる医師の一つの理想でもあります。