慢性腎臓病(CKD : Chronic Kidney Disease)
- ✅ 推算糸球体濾過率(eGFR : estimated Glomerular Filtration Rate)とは?
- 慢性腎臓病(CKD)の話をする前に、推算糸球体濾過率(eGFR)について知っておく必要があります。これは血液検査でわかる血清クレアチニン値から計算式で求めます。クレアチニンはおもに筋肉に由来する窒素を主体とした老廃物であり、これは腎臓から排出されて処理されます。腎機能が低下すると血中にクレアチニンがたまり、血清クレアチニン値が上昇してしまいます。eGFRは腎臓が血液を濾過して浄化する力を、毎分あたり何 mLの血液を濾過できるかで示すものです。若年健常者では、おおよそ 90-100 mL/分くらいの値をとるのが正常範囲です。血清クレアチニン値が増加すると、それに反比例する形でeGFRは低下してゆきます。eGFRが 60 mL/分未満になると濾過機能は明確に低下したとみなされ、慢性腎臓病とよばれます。さらに悪化が進行して、eGFRが 30 mL/分程度未満になると、慢性腎不全となり、体液や塩分の管理ができなくなります。さらに、eGFRが 5 - 10 mL/分程度になると末期腎不全となり、透析が必要となってきます。
- ✅ 血液検査結果の見方
- 血清クレアチニン値がわかれば、あとは性別と年齢を用いてeGFRは自動的に計算されます(このため、estimated = 推算となっているのです)。ただし、手計算のレベルをはるかに超えているので、パソコンに計算させます。最近は特定健診や人間ドックではもれなくeGFRの値も付いてきますが、一部の検査機関では血清クレアチニンの値はあっても、eGFRの値は併記されていないことがあります。その場合、ネット上には信頼できる計算サイトがいくつもありますので、eGFRの値を計算させてみてください。
筋肉量の多いアスリート、るいそうが著しい方、下肢を切断された方など筋肉量が極端に多い、あるいは少ない場合には、筋肉量に依存しない指標である血清シスタチン Cを用いた推算式(eGFRcys)がより適切です。
- ✅ 慢性腎臓病は比較的新しい区分
- 慢性腎臓病は比較的新しい病態区分であり、それ以前は、慢性腎不全の一歩手前まで、腎機能は「ほぼ正常」とみなされていました。医療者の関心の度合いも低いと言わざるを得ませんでした。現在では、慢性腎臓病の概念が広く、医療者や健診システムに行き渡り、eGFRが 60 mL/分近辺まで低下した段階で、それ以上の悪化を防止する手立てを打てる機会が生み出されました。
- ✅ eGFRは改善・回復しない?
- 一時的な脱水や腎毒性薬剤の使用の場合などにはこの限りではありませんが、eGFRは通常、改善の方向に向かうことはありません。せいぜい横ばいで推移か、リスクが残存していればさらに悪化します。eGFRの低下は血液を濾過する腎臓内の微小装置である糸球体の潰れを意味しており、コチコチに固まった糸球体の毛細血管に再度血が流れ、血液成分の濾過が起こることはありません。だからこそ、沈黙の臓器である腎臓には細心の注意を払って愛護的に扱う態度が求められます。
- ✅ 慢性腎臓病(CKD)の定義を確認します
- CKD の定義は以下の i)、ii)のいずれか、または両方が 3カ月以上持続することです。
i) 尿異常、画像診断、血液、病理で腎障害の存在が明らかであること。特に0.15 g/gCr 以上の蛋白尿(30 mg/gCr 以上のアルブミン尿)の存在が重要です。
ii) eGFRが 60 mL/分未満であること。
この定義では、CKDの原因となる疾患については特に問うていません。原因が何であれ、できるだけ早期に腎臓の異常を発見して、精査や治療につなげ、腎機能の低下、腎不全への進行、透析の導入を回避することが重要なのです。特に尿蛋白定性検査と血清クレアチニン検査はルーチン検査であるので、いつでもどこでも検査が可能であり、特定健診でも毎年検査が行われる項目になっています。
- ✅ CKDの重症度分類
- 重症度は原疾患・GFR 区分・蛋白尿区分を合わせたステージにより評価します。死亡、末期腎不全、心血管死発症の重症度リスクが緑の段階を基準に、黄、オレンジ、赤の順に上昇します。eGFRと尿蛋白(尿アルブミン)の2方向から評価するシステムです。自分のデータでご自身のCKD現在地を確かめてください。
- ✅ 喫煙と慢性腎臓病
- CKD患者においては、喫煙が死亡率や心臓・血管病変の発症率、さらにCKD自体の進展に悪影響を与えることが報告されています。禁煙によりこれらの悪影響が減少する可能性があり、CKD患者には禁煙が推奨されます。
- ✅ 血圧管理
- CKD患者において高血圧・尿蛋白の抑制と心臓・血管病変の予防のため、1日6 g 未満の食塩摂取制限が必要です。
CKDの病態において、直接 eGFRを改善させる治療法というものは存在しません。eGFRの悪化を促進する因子を見つけて、その因子に対して対策や治療を行います。禁煙もその一環でぜひ達成すべきですが、その他に血圧管理がとても重要な位置を占めます。
高血圧を伴うCKD患者に推奨される降圧薬としては、糖尿病の合併がない場合は、ACE阻害薬、ARB、Ca拮抗薬、サイアザイド系利尿薬があります。糖尿病がある場合には、糖尿病腎症に対して抑制効果が示されているACE阻害薬、またはARBを第一選択薬として用います。
また、血糖、脂質、尿酸、体重の管理も合わせて行うことが必要です。
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